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2014年 06月 07日
「ヨシザカについて私が知っている2、3の事柄」 23.木の葉のようにあしらわれる M2の秋になった。 就職解禁日(私達の頃は10月1日)が近づき、進路を決めなければならなかった。 私は自分のやっていたバラックの研究がとてもおもしろく、もう1年それをやりたいと思ったが、然りとてそれを論文にまとめたいとは思わなかった。 (卒論や懸賞論文コンペをやってみて、論文という形式が私には全く向いていないことを痛感した。何かを解剖学的に視て、それを数値や正確な言葉に置き換え、順々と仮説を説明して行く作業は、正直、私にはカッタルかった。 もっと直感に満ちた、一撃のもとに相手を倒す詩的言語のようなものに憧れていた。 パウル・クレーは「アングルは静止を秩序づけたといわれる。わたしはパトスを越えて、運動を秩序づけたいと思う」と言ったが、私は運動を運動のまま定着したいと思っていた) 9月30日の午後、研究室に行くと、ヨシザカが自分の机の上で作業をしていた。 他には誰もいなかった。 「先生、お話があるのですが」と言うと、 「はい、何でしょう?」と言ってくるりとイスを回転し、私の目を真正面から見た。 ヨシザカは姿勢が良いので、正対すると凄い迫力だ。心の中まで見透かされるようで少しもごまかせない。また、真剣勝負で挑まないと軽くやられてしまう。 私は気合いを入れて言った。 「今やってるバラックの研究がおもしろいのでドクターに1年行きたいのですが、ドク論を書く気はありません。それでもよろしいですか?」 するとヨシザカは、 「ああ、いいですよ」と意外なくらい呆気なく言った。私は内心ホッとした。 「でも、君はいつも、ものつくりになりたいと言っていた。 そして、それは向いていると私も思う。 するとその1年は無駄になってしまうね?」と続けた。 ヨシザカに言われて初めて私は (ああ、本当だ、無駄だ!こうしてはいけない、早く始めなければ!)と思った。 「それに、私もいつまで生きているかわからない」と意味深な言葉を付け加えた。 初めて就職することを考えたので、「どこに行きたいのだ?」と訊かれても、咄嗟に答えが出て来ない。 いつも遊びに行ってるU研や象がふと頭に浮かんだので、それを口に出すと、 「ずいぶん身内だね〜」と言う。 他所の飯を食ってこい!と言ってるのだ。 ますます慌てた。 好きな建築を考えようと思った。小諸にある小山敬三美術館と軽井沢にある小さな森の山荘が頭に浮かんだので、村野さんや吉村さんの名前を口に出すと、 「ずいぶんお歳を召した方々だね〜」と言う。 もっと若い、生きのイイ所へ行け!と言ってるのだ。 ここで私の頭は停止してしまった。何も浮かんで来ない。 すると「××××はどうだ?」とある有名なプレファブメーカーの名を挙げる。 私は憤然として、 「先生は僕に、設計事務所ではなく、プレファブメーカーに行け!と言うんですか!!」 と言った。 するとヨシザカは、 「地球上で満足な家と呼べる物に住んでいる民は3割しかいない。 残りの7割は家とは呼べない物に住んでいる。 お前は30億の民のために頑張ろうという気は無いのか!!」 と逆に一喝された。 ハッとして一瞬、プレファブメーカーに行こうか、とも思った。 だが、さすがにそこまでデザインを捨てる気にはなれない。 黙って考えていると、突然、 「コロンビア留学という手もあるぞ!」と言う。 ヨシザカは国際学部でも教えているので、そういう募集があったというのだ。 でも、コロンビアがどこなのか、正確な位置さえわからない。 「ここだ!」と言って、自分の机の上に置いてある地球儀の南米の一番上を指差しながら、コロンビアがどういう国かを熱く語り始めた。そして明日、朝一で国際学部に行って、留学の募集要項を取って来いという。 次の日は朝から雨だった。言われた通り、国際学部に行って、要項を取ってきた。 資格の最初に「スペイン語が堪能なこと」と書いてあった。 私は少しホッとして、それをヨシザカに見せながら笑って言った。 「先生、『スペイン語が堪能なこと』ですって!」 するとヨシザカが言った。 「私が教えてやる!」 さすがにこの件は、どうしてもコロンビアに行きたいという気持ちが湧かなかったため、お流れとなった。 だが、この時の木の葉のようにあしらわれた感覚は真にヨシザカ流だった。 それを肌身で感じた。 その後一月間は何事も無かったかのように時間が過ぎた。 その間もどこに行きたいのか何度か考えたが、何も頭に浮かばなかった。 かずま
by odyssey-of-iska5
| 2014-06-07 17:01
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