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2021年 09月 21日
拾遺篇28.地表は果して球面だろうか ヨシザカの新しい本が出た。 と言っても、41年前に亡くなったヨシザカが新たに書き下すわけがなく、これは彼の死後、弟子達によってまとめられた全17巻の「吉阪隆正集」(勁草書房 1984〜86 絶版)の中から、2、4、5、7、9、10、11、13、16巻の一部を抜粋してまとめられた本で、百科事典の平凡社が提案する、科学と文学の双方を横断する新しい随筆シリーズ「STNDARD BOOKS」の一冊として編まれた。 そういう意味では6年ほど前に出版された「好きなことはやらずにはいられない」(建築技術 2015)と似ているが、「好きなことは‥」は絵やスケッチ、図解、写真が豊富で、言葉もキーワード的なものが多く、短時間に要領よくヨシザカのエッセンスをわかった気分にさせてくれる。 だが、「地表は果して‥」は少し理屈っぽい文章が並び、しかも40歳から63歳まで書かれた年代が異なるのでやや読みにくく、集中力がいる。 だが、読んで損はない。ヨシザカの真骨頂がいろんな所で散見できる。 まず最初に、「三つの建築家像」(1973 56歳)という文章がある。 第一は用への奉仕(体制に乗って、その維持に尽くす)、第二は筋への奉仕(真理に肉薄し、実を捨てて名をとる)、第三は愛への奉仕(ささやかな積み重ねで町全体を住み良いものにする)と3つ挙げ、「‥‥前二者のように、生み出すことに力を致すものが覇をとなえる価値のあり方から、あるものを育てることの方が大切だという価値に重点を切り換えなければならないのではないか」と言って、第三の愛への奉仕の大切さを説く。 ヨシザカらしい視点だ。 「環境工学とは何か」(1973 56歳)という短文では、自身の髭の話から始まり、毛髪や体毛の話に移り、防寒や防災の設備依存の話を経て、「‥‥環境への順応、それには二つのみちがあるのだ。一つは、己れ自身がこれに適応する訓練、今一つは、あまりに苛酷な時、それを緩和するための技術、この両者の均衡が求められるべきなのだ。今日では、すべてを後者のみで解決しようとする所に、巨大なる過ちを犯しているのではなかろうか」と、お題のバラ色的なニュアンスとは異なる警鐘を鳴らしている。 「不連続統一体の提案」(1957 40歳)はサンパウロ・ビエンナーレに参加する学生達と作品をつくっていた時の文章で、何度読んでも若々しい力に溢れている。 この時、ヨシザカはコルビュジェの言う「不思議の扉を開いた時の感激」に似た喜びを感じ、次のように熱く語っている。 「‥‥だからこれを逆にして、公共的なものが、各地に住んでいる人達をたずねて歩くようにしたら、住んでいる所の施設が固定せず、居ながらにして遠い所ともつながるのではないか。巡り来るものはいろいろな内容のものである。したがってある固定した建物では不具合である。その度に適した新しい場がつくられる。そんな場をつくる可能性だけを広場にしておけば、町の人達の心を結びつけるものはできる。そしてそれは同時に、また他の所に住む町の人達ともつながる。同じ相手と接し、同じ対象を見ているというつながりがあるのだから。」 「有形学へ」(1967 50歳)は有形学を構想した時の発起文だが、それが未完の永久運動になるであろうことは末尾に予見されている。 「‥‥特に創造ということになると、その字も示すように、今までなかったものをつくるので、もし有形学がつくり方を示してしまったら既にそれはつくられたものとなり、我々は更にそれを破壊してゆくことに創造の源泉があるのだから、有形学は絶対にいつまで経っても完成されることがないということになる。 これはとんでもない迷路に入りこんでしまったものだとは気がついているが、どこまで行けるか大変興味のある探検である。」 引用はこれくらいにしよう。 各人が好きな文章に出会ったら、図書館で「吉阪隆正集」を借りて読み進めることを勧める。 (私は個人的にはコルビュジェの所から帰ってきた後に赤裸々に書かれた「ル・コルビュジェ」(1954 37歳 この本には未収録)や、亡くなる少し前の「好きなことは‥」(1980 63歳 この本に収録)がストレートな言葉で語られていて、好きだ。) お彼岸の初日、天気が良かったので、多磨霊園のFとヨシザカの墓参りに行った。 ヨシザカの弟さんが今年3月初めに亡くなったことを知った。93歳だった。 今頃天国で久しぶりに兄弟の会話に花を咲かせていることだろう。 かずま
by odyssey-of-iska5
| 2021-09-21 19:08
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